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2010年01月10日
ジェイクのアメリカ本土旅日記 byマネージャー
第209回:イギリス物語その3

小さな控え室ですが、暖かい。
小さな控え室ですが、暖かい。
リハーサルはベット・ミドラーの部屋(もちろんスィートルームです)で行われました。私は邪魔にならないように、挨拶だけをしに行きました。彼女の部屋のドアが開きました。私の胸の鼓動が一気に早くなるのが分かります。何を隠そう、今まで黙っていましたが、私は大のベット・ミドラーファン。若かりし頃バンドをやっていた頃は、彼女の曲もカバーした事もあるし、彼女の代表作と言える映画、『Beaches(邦題はベスト・フレンド)』は何十回と見ています。当たり前の事ですが、まさかベット・ミドラー本人に会えるとは夢にも思っていませんでしたから、もしかしたら、会った瞬間に心臓が止まってしまうかも、などと冗談じゃ無くて本気で思いながらベット・ミドラーの登場を待ちました。顔がどんどん紅潮してくるのが分かります。「ハーイ、ジェイク!」ベット・ミドラーです。まず声がしました。そしてその声を追うように、バスローブを着たちっちゃなオバさんが私達の目の前に現れました。ノーメイクです!背丈はうーん、155cmも無いくらい。テレビの画面で見るベット・ミドラーはもっとずっと大きく見えますが、実際の彼女はこんなに小さかったのです。ジェイクは私を「ボクのマネージャーのK女史です」と紹介すると、ベット・ミドラーはノーメイクの顔をくしゃくしゃにして大きな笑顔を作り、握手のために手を差し出しながら「あらまあ!初めましてー!お会い出来て嬉しいわ」と言いました。嬉しいのはこっちの方ですよ、と言いかけて「今回はジェイクを招待して下さり本当に感謝しています」と、口を開くと心臓の鼓動が彼女に聞こえちゃうんじゃないかしらと心配しながらも、落ち着いたふりをして、ベット・ミドラーのいちファンでは無く、ジェイク・シマブクロのマネージャーとしてのプロ用の挨拶を返しました。ああ、緊張したー。

リハは一時間ほどで終了。今夜はこの後オペラハウスに行って、現地でのリハーサルも予定されています。オペラハウスがあるブラックプールまで、ホテルから1時間ほどかかるとの事。出発時間にロビーに下りて行くと、ベット・ミドラーのレコード会社の人達が数人待ち構えていました。Rhino UK という、ウエブサイトを見れば分かりますが、ベット・ミドラーを始め大勢のビッグ・ネーム・アーティスト達がこぞって契約をしているイギリスではとても有名なレコード会社です。その中の一人が私達を見つけると「やあ、ジェイク!ウエルカム、ウエルカム!」と挨拶をしてくれました。「ボクはダン。ベット・ミドラーの担当なんだ」彼とは何度もメールのやり取りをしていたので私も挨拶を。若いのに何故かつるっ禿です。寒いだろうに(余計なお世話ですが)。

予定の時間から30分ほど遅れてやっとベット・ミドラーがロビーに下りてくると、彼女のアシスタント、ジルの姿も。ジルとも10月から何度もメールのやり取りとしていたので、二人とも初めて会う感覚じゃないねーと言いながら「初めまして」の挨拶を交わしました。ベット・ミドラー、マーティ、そしてジルはベンツに乗り込み、ジェイクと私はレコード会社の人達と一緒に大きなバンでオペラハウスへ向けて出発です。もう辺りは暗くて、外の風景は何も見えません。同乗者も挨拶がひと通り終わればそんなに話す事もありません。ジェイク御得意の「ハワイにはいらした事がありますか」と「ハワイに来てください」くらいです。初めての土地、初めての人達、そして初めて女王の前での演奏。緊張は絶頂まで達していますから、ジェイクにこれ以上何かしゃべろと言っても無理な相談。なので、私から少し話題を作ってみましたが、それも時間を稼げたのは10分くらいでしょうか。聞く所によると、Rhino UK の彼ら達にとっても、女王の前で契約アーティストが演奏する事になったのは初めての事らしく、やっぱり皆同じ様に緊張している様子。ならばいっそ、このまま緊張の空気を車内に押し込めたままオペラハウスまで行こうではありませんか!

オペラハウスの前では、リハーサルに来るアーティストを一目見ようと、ファン達がこの寒空の下、小さな群れを作っていました。車が停車すると同時に両側ドアとトランクが大きな音を立てて開き、ドヤドヤと大勢のスタッフらしき人達が荷物を出したり、私達の手を取って足下が危なく無いように車から下りるのを手伝ってくれました。日本のイヴェント会場の雰囲気と似ています。ベット・ミドラーとは「じゃ後でね」と別れ、控え室へ。ジェイクの控え室は4階の一番奥。その部屋にたどり着くまでに通った他の控え室には、「Miley Cyrus」「Lady Gaga」「Whoopi Goldberg」「Mika」「Chaka Khan」「Michael Buble」などなど有名人の名前がずらり。思わず写真を撮ってしまいました(笑)。ジェイク用の控え室はかなーり小さく、そうだな、畳で言うと二畳くらいでしょうか、冷えきった部屋にヒーターのスイッチを入れるとものの30秒ですぐに暖まるほどの広さです。まあ、そういう意味では寒さに凍えずに済むので良かったです。

リハーサルというのは大抵「押す」ものです。当たり前ですが、明日は本物のイギリス女王の前での生演奏ですからして、失敗があっては大変と、各アーティストのリハーサル、つまり準備にはいっそうの熱がこもります。押して押してやっとジェイクとベット・ミドラーの番。ベット・ミドラーは明日のイヴェントのオオトリです。一番の見せ所です。という事は、もちろん自動的にジェイクもオオトリ。私は客席でリハーサルを見守っていましたが、ああ、どんなにジェイクは今にもお腹が痛くなるほど緊張している事だろうと思うと、居ても立ってもいられません。生まれて初めて学校の学芸会で主役を演じる我が子を見守る母親のごとく、ハラハラドキドキです。ジェイクの立ち位置が決まり、ウクレレのサウンドチェックが終わり、ベット・ミドラーがステージに登場して、さあいよいよ二人の音合わせです。よく考えたら、私は二人の演奏を一度も聞いていませんでした。昼間のリハーサルも挨拶だけして実際の音は聞いていなかったし。と思ったら途端に全身に鳥肌が立ち始めました。ジェイクがイントロを弾き始めます。ベット・ミドラーは、やはり我が子を見るようなまなざしでジェイクをじっと見ながら……そして静かに歌いだしました。「There are places I remember......♪」

3回ほど合わせて、二人の『In My Life』のリハーサルは終了です。そして次に、ベット・ミドラーがソロで歌う『Wind Beneath My Wings』のリハーサル。が、これには予定以上にかなりの時間を要しました。というのも、どうもジェイクとのデュオ演奏とは違ってビッグ・バンドでの演奏なので、モニターから拾う自分の声とバンドの音のバランスがなかなか取れないようなのです。何度も何度もやり直し、それでも100%は納得が行かないまま時間だけが過ぎて行きます。「まあ、これならとりあえず大丈夫」というレベルまで何とか到達、明日のカメラリハーサルの時にまた細部のチェックをするという事で今夜のリハーサルは終了しました。ベット・ミドラーはさすがに疲れ切っています。そりゃそうです。彼女がイギリスに到着したのは12月4日だそうですが、昨日も今日も朝からレコード会社のプロモーションでフル活動、今夜のリハーサルでは納得の行くものが得られないまま、明日はもう本番なのですから。リハーサル前には「町場のイタリアン・レストランで皆で食事をしましょうよ」と言っていたベット・ミドラーも、リハーサル後は、食事はルームサービスで済ますと言って部屋に戻って行きました。

ジェイクと私は、ダンに夕食に誘われてまたもやホテルのレストランへ。レコード会社のスタッフ数人、ベット・ミドラーのパブリシスト、また他のアーティスト数人も参加して、大人数での楽しい宴となりました。私は昨夜ジェイクが頼んだ「ドーバー・ソール」を頼みたかったのですが、今夜はもう売り切れだそう(泣)。しかたが無いので昼間も食べた同じお魚料理を注文。と、隣に座っていたレコード会社のスタッフがメニューを見ながら「あ、あったあった〜」と、「フィッシュ&チップス」を指差しているでは無いですか。へえ、名物って、どこでもその土地の人はあまり食べないものかと思っていたらそうでも無さそうです。そして、その人はさらに、運ばれて来た「フィッシュ&チップス」を見て「やったー!」と拍手をしながら「これでなきゃね〜」と言ってガッツポーズ。グリーンピースの付け合わせを大歓迎したのでした。その男性は年の頃は50代後半。可愛いオジさんです!何だか、イギリス人の素朴な側面をかいま見たような気がして、微笑ましくなりました。皆、大いに食べて飲んで、そして明日の緊張を吹き飛ばすかのようにたくさん笑って、楽しいイギリスの夜は更けて行きました。それにしても、イギリス英語の発音は聞き取り難いけれど、慣れてくると何だかいい感じです。好きじゃないという人も多いけれど、私は好きだなあ。二年前にオーストラリアに行った時には、正直オーストラリア訛りには四苦八苦しましたが、イギリスのそれは私の耳に心地よく入り込んで来ます。

続く…
Rhino UK のスタッフ達とホテルの前で
Rhino UK のスタッフ達とホテルの前で
控え室のドアです。記念に。
控え室のドアです。記念に。


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